最高裁判所大法廷 昭和37年(あ)1628号 判決 1966年7月20日
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
被告人西村義朗の弁護人白上孝千代の上告趣意第一点について。
所論は、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当らない。
しかし、事案にかんがみ職権を以て調査するに、記録によれば、所論原審の判事は、第一審裁判官として、その第五回公判期日に所論証拠の取調をなしたこと、該証拠は第一審判決の判示(1)の第一の(一)および同(2)の第一の各事実の認定の用に供されていること明らかである。
してみれば、所論判事が本件において刑訴法二〇条七号にいう前審の「裁判の基礎となった取調に関与した」ことは明らかであるから、同判事には除斥理由が存するものというべきである。従って、職務の執行より除斥さるべき判事が原審手続並びに原判決に関与していることは違法であり、この違法は、判決に影響を及ぼすべきものであって、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
そして右の理由は、被告人両名に共通であるから、刑訴法四一四条、四〇一条に則り、被告人菱田滋彦についても原判決を破棄すべきこととなる。
よって、その余の論点並びに被告人菱田滋彦の弁護人岡田実五郎、同佐々木熈の上告趣意につき判断するまでもなく、刑訴法四一一条一号、四一三条本文を適用して、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 奥野健一 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 長部謹吾 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 松田二郎 裁判官 岩田 誠 裁判官 下村三郎)